熊本家庭裁判所 昭和43年(少)700号 決定 1968年4月26日
少年 B・T(昭二六・一二・二六生)
主文
少年を中等少年院に送致する。
理由
(非行事実)
一、少年は、昭和四三年三月○○日Aとともに佐世保少年院を逃走して後記二の(一)ないし(一三)の窃盗をはたらいたあと、同月△△日深夜熊本県上益城郡○○町大字○○付近を徘徊中、以前同町に居住していたため土地の事情にくわしいAから同町大字○○××××番地食料品日用雑貨商藤○実(当六四年)方に強盗に入ろうと話をもちかけられたところ、金銭に窮していた折でもあり東京方面へ逃走する旅費にしようという考えもあつてこれに応じ、Aと藤○方に強盗に入ることの相談をした。そうして、少年およびAの両名は、翌××日午前二時一〇分頃上記藤○実方に至り、同人方六畳間に入つたが、同所に就寝中の同人の妻○ミ(当六〇年)から懐中電灯を照らされるや、Aにおいて直ちに同懐中電灯(一個)を○ミから奪取し、少年において所携の特殊警棒(後記二の(四)の窃取にかかるもの)を右手に、果物ナイフ(後記二の(七)の窃取にかかるもの)を左手にそれぞれ握つて腰の両脇に構え、○ミおよび同じく同六畳間に就寝中の藤○実に対し、「騒ぐと殺すぞ。金を出せ。」などと申し向けて脅迫し、二人の反抗を抑圧したうえ○ミから現金二万円を奪い、もつて懐中電灯および同現金を強取し、隙をみて屋外に出ようとした藤○実の頭部を少年が前記特殊警棒で二回殴打し、さらに六畳の間にあつた手提金庫の中から現金約三〇〇円を強取したが(以上強取の目的物はすべて藤○実所有)、その際上記暴行により藤○実に対し治療日数一〇日間を要する前頭部割創を負わせた。
二、少年はAと共謀のうえ、
(一) 昭和四三年三月○○日午前三時一〇分頃、長崎県佐世保市○○○町○○○○番地○川○二方において、同人方軒下に干してあつた同人所有の男物作業服上下・女物作業服上下各一着、エンカン服およびズボン各一枚(合計二、〇〇〇円相当)を窃取し、
(二) 同日午前三時二〇分頃、同市△△△町○○番地高○功方において、同家車庫に格納中の軽四輪貨物自動車(ホンダT三六〇)内から、同人所有の同車の工具一式(一、〇〇〇円相当)を窃取し、
(三) 同日午前三時四〇分頃、同市○○○町××××番地の○山○末○方において、同人方軒下に干してあつた同人所有の靴下一足(一〇〇円相当)を窃取し、
(四) 同日午前四時頃、同市同町○○○番地○家○寿方屋敷内において、同所に保管中の軽四輪自動車の中から、同人所有の特殊警棒一個(五〇〇円相当)およびタオル一枚(五〇円相当)を窃取し、
(五) 同日午前四時一〇分頃、同市同町△△△番地○川○○子方玄関前において、○川○一が同所に駐車させていた同人所有の第一種原動機付自転車一台(一万五、〇〇〇円相当)および同車の鍵一個(五〇〇円相当)を窃取し、
(六) 同日午前四時三〇分頃、同市同町×××番地○村○雄方大工小屋において、同所に格納中の軽四輪自動車の運転席から同人所有の石油購入チケット一冊を窃取し、
(七) 同日午前四時五〇分頃、同市同町□□□番地○藤○俊方前空地において、同所に駐車保管中の普通乗用車の中から、同人所有の自動車用時計一個、コート一着、果物ナイフ一本を含むハイキングセット一組ほか一四点(合計一万六、四九〇円相当)を窃取し、
(八) 同日午後九時頃、同市○○町○○○番地の○山○義○方において、同人方ヴェランダから同人所有の布製スリッパ一足(二〇円相当)を窃取し、
(九) 同日午後一〇時頃、同市同町△△△番地相○幸○郎方において、同人方軒下に干してあつた同人所有の靴下二足(二〇〇円相当)を窃取し、
(一〇) 同日午後一一時頃、同市△△町○○○○番地○川○夫方鉄工所屋外作業場において、同人が同所に駐車させていた同人所有の普通貨物自動車一台(一五万円相当)を窃取し、(これを運転して両名とも熊本県に赴き)
(一一) 同月△△日午前五時頃、熊本県菊池郡○○○町○○××××番地○○○幼稚園給食室において、同幼稚園長○田○○子管理のソーセージ五本ほか四七点(合計一、二二五円相当)を窃取し、
(一二) 同日午後一〇時頃、同県上益城郡○○町大字○○×××番地○○町立○○小学校給食室において、同小学校長長○篤管理の牛乳約二合およびみつ豆少量(合計三九円相当)を窃取し、
(一三) 同日午後一一時頃、同町大字○○△△△△番地○○町立○○保育所において、同所玄関に置いてあつた同保育所長○崎○○子所有の女物サンダル一足および○野○信所有の男物サンダル一足(合計約八〇〇円相当)を窃取し、
(一四) 同月□□日午前四時頃、熊本市○○×丁目○○番○○号○○自動車整備工場前において、下益城郡○○町○○×番地○林○明所有の三菱三六〇CC軽四輪自動車一台(一五万円相当)を窃取し、
(一五) 同日午前五時頃、前記(二)記載の○○○幼稚園において、同園土間に置いてあつた○田○○子所有の短靴一足(一万円相当)を、同園ふとん類置場に置いてあつた同人管理の毛布六枚(三、〇〇〇円相当)ほか六点(五、四〇〇円相当)を窃取し、
(一六) 同日午後七時頃、熊本市□□町○○○○番地旅館野○太○朗方において、同旅館玄関に置いてあつた同人所有の黒短靴一足、黒○隆所有の黒短靴一足、○室○道所有の黒短靴一足(合計一万二、五〇〇円相当)をそれぞれ窃取したものである。
(罰条)
一の事実については、刑法二四〇条前段、六〇条
二の(一)ないし(一六)の各事実については、いずれも刑法二三五条、六〇条
(処遇について)
調査の結果によれば、概要次のとおりの非行歴および保護歴が認められる。すなわち、少年は九歳時に父に死別後母および四人の兄弟姉妹と福岡市に居住していたが、小学第三学年に進級直後、買い物に行つている八歳児から共犯者四人と現金五〇〇円を取り上げた(窃取)のを初発非行として、九歳時にほかに二回、一〇歳時に二回と非行(窃盗)を重ね、一〇歳時には教護院に入所措置がとられて福岡学園に入所した。入所後一年余の間は落ち着いていたが、一二歳時に入つてから他の在園児を伴つて無断退去しては非行(窃盗)に至ること一〇数回に及んだため、昭和三九年一二月二六日(一三歳になつた日)に児童相談所からの強制措置申請が許可された(三ヵ月間)。しかし、強制措置解除後一ヵ月目の頃から、またも無断退去・非行を数回繰り返し、その間一四歳に達したのちも窃盗を続けたほか在園児に暴行を加えて傷を負わせ、昭和四一年五月には窃盗・傷害保護事件として福岡家庭裁判所に係属するに至り、同月二八日初等少年院送致の決定を受け、佐世保少年院に入院した。
少年院においては、入院当初は無事故で過したが、入院後九ヵ月経過した頃暴力事犯に及んで謹慎を命ぜられ、その後約八ヵ月経過し仮退院が近づいた頃また在院者に暴力を振るつたため仮退院許可も取り消され、昭和四三年四月にはいよいよ仮退院が予定されていたのに、同年三月○○日午前二時頃、他の寮室の少年達が鉄柵を切断して逃走したことを察知するや、少年は親しくしていた在院者Aを誘つて上記切断箇所から逃走し、次々に本件非行を犯して行つた。
少年の性格面をみるに、情緒が不安定で忍耐力・集中力に乏しく、些細な刺激にあつても興奮しやすくて衝動的行動に出がちであることがうかがわれる。鑑別結果によつても、気分は抑うつ的で陰けんなところがみられ、思考・判断は著しく自己中心的・外罰的で、行動面では攻撃的傾向が強い、となつている。少年のこのような性格は前記保護中の事故頻発にもあらわれているとみられる。
少年の家庭環境は本件についての少年調査票家庭欄記載のとおりであつて、母親の少年に対する愛情および受入態勢を整えつつあることはうかがえるが保護能力に不充分なところがあり、以上の初発非行後の経過および性格面に徴するとき、少年の更生を図るためには少年を再び少年院に収容して矯正教育を施す必要があると認められるところ、少年の年齢・保護歴・本件非行の内容等からみて、今回は少年を中等少年院に送致するのが相当である。
よつて、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年院法二条三項に則り主文のとおり決定する。
(裁判官 久保園忍)